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『ドリーム・シナリオ』 ニコラス・ケイジ A24

映画

A24制作の映画『ドリーム・シナリオ』を観た。

主演のニコラス・ケイジ演じる大学教授のポールが他人の夢の中に出てくる。
それも多くの人に夢の中に。
そのことでポールは一躍有名人になってしまう。
彼はそんな状況が満更ではなかった。
最初は特に夢の中で何かをするということのなかった彼だが、次第に夢の中で悪さをし、夢を見た人に恐怖やトラウマを与えてしまう。
そしてついには、皆から忌み嫌われる存在となってしまうのだった。

夢というのは、夢を見る当人が作り出すもの。
想像力や無意識の願望が反映されたりすることもあり、事実とは程遠いものも多い。
それにもかかわらず、夢に現れたポールという存在が人々から非難の的となる様子は、現代のSNSによる誹謗中傷やキャンセルカルチャーを暗喩しているようだ。
SNSなどの過度なネガティヴな投稿などは、事実という確証のないまま放たれることが多いのはご存じの通り。

この物語の重要な部分として、ポールにはにいけ好かない部分があるということ。
それが批判者にとって都合のいい物語づくりを威勢づかせ、彼に向けられる怒りや嫌悪を助長する。
彼が非難される直接的な原因とは関係のない性格や振る舞いが、いつの間にか問題点と混同されていく。
それ以前に、当たり前の前提として人間誰しも完全無欠ではないのだが。

また、この「他人の夢の中に現れる」という現象を商売にしようとする者も現れる。
進歩的なアイデアや科学技術はすぐに金儲けの道具に変えられてしまうのは世の常。
夢という個人の最もプライベートな空間が商業化され、さらに人間の心を支配する手段として利用される様子が描かれる。
それは、技術の進歩によってこうしたサービスが現実になる可能性を予感させる。
僕はシュワルツェネッガー主演の映画『トータルリコール』を少し思い起こした。
理想の夢の体験をリアルに感じるというあれだ。
間違いなく、そう遠くない将来にあのようなサービスは現実化されるだろうと思っている。
そのようなサービスに行きまくれば、もうどちらが現実でどちらが夢かの境界が曖昧になり、人生というものがこれまでとは全く違うものになってしまうことが予想される。
それが幸せな未来か不幸な未来かは、結構微妙なのではないだろうか?
でも僕はハマるだろうな。
多分ポールもハマる、というかそこに逃げ込みはじめてるではないか既に。
きっと多くの人がそうなるだろう。
大体において現実の人生は辛く厳しいのだから。

物語の最後、トーキングヘッズの曲が流れる中で描かれるポールの姿には、ある種の哀れみを感じる。
彼の人生が崩壊し、社会的に孤立していく様子に同情を禁じ得ない。
それでも生きていかねばな、ポール!

批評家や観客からは、この映画が現代社会の問題を鋭く風刺している点で高く評価されている。
特にSNS時代の名声やプライバシーに対する洞察は、観る者に強い印象を与える。
ただ一方で、一部の批評では物語の展開がやや冗長であることや、テーマの扱い方にもう少し深みが欲しかったという意見も見受けられる。
しかし、この映画が描くテーマ性やニコラス・ケイジの存在感ある演技は、そうした欠点を補って余りある魅力を放っていると思う。

傑作ではないかもしれない。
だが本作は十分に素晴らしい作品である。
ニコラス・ケイジ演じるポールという人物が、現代社会で生きる僕たち自身の在り方を問い直させるきっかけを与えてくれる。

あと僕がポールを非難してる劇中の人々に対して思ったのは、
イエス・キリストが言ったとされている
「あなた方の中で罪のない者が、まずこの女に石を投げつけるがよい」
という言葉。
ターゲットを決め、限られた世界での空気を読みながらSNSなどで無責任な暴言を吐く人たちについても同じだ。

世界はかなり壊れている。
そういう意味で、この映画はけして荒唐無稽ではない。

それにしても凄いわ、ニコラス・ケイジ。

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