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最高のブルース映画『罪人たち』

映画

ブルースという音楽は、黒人のワークソングから発展したとも言われている。
その成り立ちを鮮烈に映し出すのが本作だ。

「クロスロード」伝説というものがある。
ロバート・ジョンソンがミシシッピの十字路で悪魔と契約し、自分の魂と引換えに卓越したギターテクニックを手に入れたという逸話である。
そのロバート・ジョンソンが音楽活動を始めたとされる1932年のミシシッピを舞台とした、ライアン・クーグラー監督(『クリード チャンプを継ぐ男』『ブラック・パンサー』など)による映画『罪人たち』は最高だった。
アメリカで大ヒットを記録したが、なかなか日本での公開がアナウンスされずどうなっているかと思っていたら、その後突然公開決定のニュース。
実際に急遽決まったのか公開館は少なく、結果的に熱心な映画ファンなど限られた観客にしか届かなかった。
本作はブルースを中心に黒人音楽の成り立ちと文化を描くものであり、音楽ファンにも必見の内容である。
当初の情報からホラー映画というイメージをもって劇場に行った僕は、まさかのブルース映画な内容にビックリ。
それは黒人たちが過酷な現実の中で紡ぎ出してきた音楽の歴史そのものだった。
畑での厳しい労働を強いられる彼ら。
対価は払われるものの、それはアメリカ全土で通用するドルではなく、その地域限定の通貨。
まるで『カイジ』のペリカのごとく。
音楽は、そんな彼らの苦しみを吐き出すものであり、同時に生き延びるためのパワーでもあった。

物語の主人公は、マイケル・B・ジョーダンが一人二役で演じる双子の兄弟スモークとスタック。
彼らは酒場、いわゆるジューク・ジョイント(黒人労働者などが集まり、飲み食いしながら歌ったり踊ったりする場所)をオープンする。
そこで繰り広げられるブルースには、抑圧を跳ね返す生命力が宿っており、心の奥底の悲しみを纏いながらも興奮と快楽のグルーヴを解き放つ。
中でも白眉なのは、スモークとスタックのいとこである才能豊かなミュージシャンのサミー(マイルズ・ケイトン)が「I Lied to You」を歌う場面。
ラファエル・サディークとルドヴィグ・ゴランソンの共作によるこの曲、導入部は明らかなブルース調であるが、途中ロックギター・ラップ・DJ・トライヴァルなパーカッションなど様々な音楽が時空を超えたように交錯する。

音楽を介して現在・過去・未来の魂が交信する儀式のような体験を描き出すのだ。
音楽が単なる物語の背景ではなく、キャラクターの精神および黒人文化の歴史を体現する存在であることを力強く伝える象徴的なシーン。
その臨場感は圧倒的である。
そんなブルースの祝祭のようである前半部であったが、後半ヴァンパイアの登場により物語は様相を変える。

ヴァンパイアのリーダーはアイルランドからやってきた者。
ゆえに彼らが携えるのはアイルランド音楽。
伝統的なアイリッシュ・フォークである「Rocky Road to Dublin」の激しいリズムと歌は、ブルースの律動に真っ向からぶつかり、ジューク・ジョイントを祝祭から狂気へと反転させる。

黒人コミュニティの祈りと嘆きがこもるブルースと、異郷からのフォークが衝突。
それは文化的な軋みであり、同時にこの映画の大きな見どころ聴きどころでもある。
その後の詳しい展開は是非映画を観てもらいたい。
上述したようにアメリカで大ヒットとなったものの、日本での興業は小規模に留まった。
それでも黒人音楽や文化に関心を持つ者にとって、見逃すことの出来ない映画だと断言できる。
もう劇場公開は終わってるが、配信やソフトで是非!

聴き応えあるサントラ盤も同時に堪能していただきたい。
1曲目には映画冒頭の教会で歌われる賛美歌「This little light of mine」と後にサミーが歌う同曲のブルース・ヴァージョンが収められている。
サミーはこの曲を最初教会の賛美歌として体験し、ブルースへと昇華していったのだろう。
この音楽の変容は文化の歴史を垣間見せる。

その他、ヴォーカリストして参加しているジェリー・カントレルやブリタニー・ハワードが流石の歌を聴かせてくれる。
重要な役どころを演じるヘイリー・スタインフェルドの歌声も沁みる。
同じく映画に登場する御大バディ・ガイも勿論参加。
個人的には、ブルースではないが祈るように歌われ、実にブルース的に聴こえるジェイムス・ブレイクの「Seance」がベスト・トラック。

ブルースに限らず幅広いサウンドを展開した屈指のサントラ・アルバムだ。

『罪人たち』はブルース映画として、ホラー映画として、文化史を映す映画として、多層的な魅力を放つ傑作。
またこの作品は、今年国内最大のヒット映画になるであろう『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来 』と同じく死生観への問いかけを内包している点も付け加えておきたい。
この件については、今時代が必要としてるテーマなのかも、と思わされている。
永遠とは?

とにかく最高の映画でした!!

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