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ビヨンセ『カウボーイ・カーター』- 彼女の闘争は続く –

音楽

ビヨンセのニューアルバム『カウボーイ・カーター』が3月29日にリリースされた。
その同日、驚くべきことに彼女は東京で購入者向けのサイン会を行う。
Xでの開催数時間前に出された突然の告知には驚いた。
だが残念ながら、大阪在住の僕は行くことが出来ず。
行くことが出来た人には、うらやましい限りである。

諦めて早速アルバムを聴くと、当初から言われていた通りカントリーテイストが感じられる作品となっていた。
前作はハウス色が強く、いつも以上にダンスフロアに接近したものだったし、それまでも旬なビートを効果的に用いたサウンド作りをしてきたが、それら作品と比較してリズムの強さは控えめ。
シンプルな8ビート基調のものも多い。

だがビヨンセ自身はリリース前に声明を発表している。
「これはカントリー・アルバムではありません。これは〝ビヨンセのアルバム”です」と。
公式サイトより

確かにカントリー・アルバムという印象はそれほど強くない。
もちろんテイストは感じる、だがそれ以上に〝ビヨンセ“を強く感じるのだ。
そう、メロディとパッションが迫りくるヴォーカルによる力強いグルーヴが。
これこそが”ソウル”でありビヨンセの神髄。
そう言わざるを得ない。
“ソウル”な部分で変わらない以上、全ての表現は”ビヨンセ”に帰属する。
だからこその、”ビヨンセのアルバム”なのだ。

そんな素晴らしいこのアルバムの中で、もっとも僕が好きな曲は「トゥー・モスト・ウォンテッド」。
マイリー・サイラスとのヴォーカルのマリアージュがとても印象的である。

「2名の最重要指名手配者」というタイトルもあって、安直だけど最初は、ボニー&クライドの逃亡を描いた映画『俺たちに明日はない』をイメージした。
だが、あの映画のように刹那的なことを表現している曲ではない。
「私は死ぬまであなたの相棒 死ぬまでずっと」と歌われるこの曲からは、強力な意志を感じる。
“あなた”には色んな意味合いが含まれているのだろう。
それは時にビヨンセ自身のことでもあるはずだ。
自分の信念にずっと寄り添って生きていくという決意表明という意味合いで。
僕は強く胸を打たれた。

僕は英語を正確に理解できてはいないはず。
だが、歌われてる言語が正しく理解できていないのに、まるでそれが確信かのように胸に強く刻み込まれてしまう。
これが音楽の力の凄いところ。
同時に怖いところでもあるが。
僕にとっては、そんな音楽が生涯の相棒だな、と自分に置き換えこの曲を聴いたりもする。
言語が分からない国の人間にも届く、それが音楽なのだ。
ポップミュージックは世界を繋ぐ。

ビヨンセの不思議なところは、傑作アルバム『レモネード』でも感じたことだが、斬新さを感じさせないところ。
彼女の表現のベースには常にクラシックなソウルモードがあり、王道感と新鮮さが共存している。
それでも、彼女は革新的な存在として感じることができる。
これこそが”ビヨンセ印”なのだなと思う。

さて、前述の声明でビヨンセは「数年後には、アーティストの人種と、そのアーティストがリリースする音楽のジャンルが、関係なく語られる世の中になっていることを願っています。」と語っている。
ビヨンセはカントリー・ミュージックが似合うアメリカ南部テキサスの出身。
そのことが彼女の音楽人生に与えた影響は、色んな意味で多いことが想像できる。

アルバムからの先行シングル「テキサス・ホールデム」は全米ビルボード・ホット・カントリー・チャートで黒人女性として初の1位を獲得した。

保守的で白人的なイメージの強いカントリーを採り入れた今作は、彼女のさらなる挑戦である。
アルバム2曲目ではビートルズの「ブラックバード」がカバーされている。
この曲はポール・マッカートニーが公民権運動に触発されて書いた曲。
この曲が収録されてることは意味深い。
ビヨンセほどの人でも、アメリカという大国でアイデンティティーを確立させるためには戦い続けなければならないという現実。

アルバムカバーには、カウボーイスタイルのビヨンセが白い馬に乗りアメリカ国旗らしきものを掲げている姿が描かれている。
これを見て、彼女の強い想いとアメリカを背負うアーティストという立ち位置を感じた。

ビヨンセはアメリカのポップミュージックを再構築し、新たな定義を見いだそうとしているうようにも思える。
その道を切り開くため、荒馬に乗り走るのである。
 
彼女の闘争はまだまだ続く。

『カウボーイ・カーター』傑作アルバムである。

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