テレビはスポーツ以外ほぼ観なくなったので、テレビドラマにはとても疎くなってしまっているのだが『VIVANT』は観てしまった。
と言ってもU-NEXTでの配信で観たのだけど。
いや~、これ面白かったです。
主役は堺雅人だが、脇を固め俳優陣に主役級がズラリ。
阿部寛・二階堂ふみ・二宮和也・松阪桃李など凄い布陣である。
さらには、その存在感をあらんかぎり見せてくれた役所広司。
この人は、ほんと存在感のある役者さんだなぁと思う。
今年は福島原発の事故を描いたNetflixドラマ『THE DAYS』での吉田所長役でも、素晴らしい演技を見せてくれた。
作品自体も非常に多くのものを感じさせてくれるものだった。
また今後は12月に、ヴィム・ベンダース監督による『パーフェクト・デイズ』という主演映画の公開が予定されている。
これは今年行われた第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、役所広司は男優賞を獲得した。
日本人俳優としては柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる栄誉である。
公開がとても楽しみだ。
僕が近年観た役所広司出演映画で特に好きなのは、2021年の作品『すばらしき世界』。
公開当時詳細は知らず、評判良さげだし、役所広司と長澤まさみが出演しているからという理由で観に行った。
エンドクレジットで、監督が西川美和だということを知った。
彼女の作品で観たことのあるのは、『ゆれる』と『ディア・ドクター』の2作だけなので、西川美和という監督を語るほどの素養は僕にない。
だがそれら2作はどちらも好きだ。
エンド・クレジットで彼女の名を見て、何故か腑に落ちるような納得感(?)みたいなものを覚えた。
とても素晴らしい映画だった。
心に迫りくるものを感じた。
何といっても役所広司の演技が凄い。
津乃田役の仲野太賀も良かった。
当時僕は知らなかったのだが、この仲野太賀という俳優はとても人気があるというのを映画を観た後に知った。
また彼の父親は仲野英雄だということも。
そう、あのチョロだ!(たぶん若い人には分からない)
六角精児など他の俳優陣も、素敵な演技で脇を固める。
長澤まさみについては、予告編のイメージからすると全然出てこない。
それはちょっと、いや正直言って騙された感がある。
しかし、それは僕が勝手に長澤まさみが、この映画の主要キャラクターだと思い込んでただけのこと。
それに出番は少ないが、必要な役割を果たしていた。
なので、ヨシとしよう。
三上(役所広司)は襲い掛かってきたチンピラを殺し、殺人の罪で13年間服役し、出所後社会復帰を目指す。
その様子を追いかけテレビで放映するという企画を考えた吉澤(長澤まさみ)は、作家を目指している元制作会社の津乃田(仲野太賀)に連絡をし、彼にカメラを回させる。
必死にカタギとして生きようとする三上。
しかし元ヤクザの殺人犯という人間に開かれた社会は少ない。
彼のまっすぐな人間性も、尋常じゃない粗暴さと相まってハマる場所はない。
三上は、ガラの悪い二人組から絡まれている人を助けようとするが、その際相手を殺さんばかりにブチのめす。
その様は、とても活き活きとしていた。
彼の素養は明らかにそういう場面で有効に発揮され、本人もそのことに悦びを感じている。
津乃田はそんな三上に、恐怖さえ感じ、カメラを回すことを止めてしまう。
普通そうなるよね。
三上みたいな人が自分の生活圏内にいたら、きっと僕は距離を置こうとするだろう。
間違いなく、関わりたくないと思う。
困った人過ぎるし、単純に怖い。
なので、僕は津乃田にやや感情移入しながらこの映画を観ていた。
三上に感情移入することはない。
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この映画に付けられたキャッチコピーは
この世界は 生きづらく、あたたかい。
確かにその通りだと思う。
アウトローであったり協調性のない人、でもその人はその人なりに色んなものを抱えながらもまっすぐに真剣に生きている、という主人公の優れた映画を観た時、その主人公に感情移入したり、心を寄り添わせたりすることがある。
でももし自分が実際そんな人の近くにおり、その人から被害を被ったりしていたら、同じようには感じないはずだ。
その人を疎ましく思い、その人を憎んだり、その人を恐れたり、蔑んだりするだろう。
どんな人だって、それぞれの人生がある。
それぞれに問題を抱え、それらに対処しながら生きている。
でもそれがヤクザ者や犯罪者だと物語になるが、平凡でありきたりな人間だと、少なくとも売れる物語としては成立しない。
平凡でありきたりな人も、自分なりに抱えた問題に対処して生きている、法に触れないようにして。
そういう風なことをよく考える僕は、あの世紀の名作『ゴッドファーザー』シリーズに過度な思い入れを持つことは出来ない。
もちろん作品として、とても優れているのは確かだ。
これまでも、つい何度も観てしまった傑作映画。
しかし僕は思うのだ、何故そんなに苦悩を売りつけてくるのだマイケル?、と。
なんだかんだ言っても貴方はマフィアなのだ、それも正真正銘の。
普通に考えれば加害者として財をなしている側の人間。
他人の苦悩を生み、それを食い物にしている立場なはず。
喧嘩が超得意で、そのことを武器として生きてきた三上。
彼はその事で、周りから評価されてきたのだろう。
評価されることは喜びであり、希望も連れてきてくれる。
人は誰しも、得意なことをして生きていきたいと思っているはずだ。
そこまで考えて、ふと思った。
もし僕が、生まれや育ちの境遇が今とは違っていて、もう少し喧嘩が得意だとしたら、三上的なことになっていた可能性ないと断言できるだろうか。
などということを。
実は、割とまっすぐな人間なのです僕も。
そんな風に冷静に思える懐の深いところも、この映画の素晴らしいところである。
過去作では自身の原案・オリジナル脚本に基づく作品を発表してきた西川美和であるが、この映画では、実在の人物をモデルとした佐木隆三の長編小説『身分帳』を原案としている。
この映画が問題提起するいくつものこと。
それらは解決されることなく世界は成立している。
それが、僕らの生きるこの ”すばらしき世界” だ。