ベトナム戦争を映し出した一枚の有名な写真がある。

ナパーム弾で服が燃えて大やけどを負い、泣きながら走る裸の少女の姿を捉えたこの写真が世界に衝撃を与えた。
1972年6月8日の出来事。
翌年この写真は、ピューリッツァー賞を受賞する。
撮影者はアメリカAP通信のニック・ウト。
先日Netflixで観たドキュメンタリー映画『名もなきジャーナリスト:「あの少女」を撮ったのは誰なのか』は、実際にその写真を撮ったのはニック・ウトではなく、地元のフリーランスのカメラマンであると訴える内容であった。
報道写真家であるゲイリー・ナイト(この映画の制作総指揮のひとり)に、当時ベトナムでAP通信の写真編集者として働いていたカール・ロビンソンからメールが届く。
それは「”ナパーム弾の少女”と呼ばれる写真を撮ったのはニック・ウトではない」という衝撃の内容だった。
ストリンガー(正式に雇用されていない、フリーランスまたは半フリーの現地協力ジャーナリストの総称)と呼ばれる現地のフリー・カメラマン男性が撮ったと言うのだ。
これは、50年間事実として認定されてきたことを覆す訴えである。
しかも、ニック・ウトは報道写真家のレジェンドであり、AP通信は世界を代表する通信機関。
強い関心を持ったゲイリーたちは、当時のことを知る人々などをあたり実際に写真を撮ったと思われる人を探しだす。
彼はアメリカにいた。
ここまでで映画の半分ほど。
そのような事実と違うことがまかり通った当時の状況や、科学的な手法なども採り入れた綿密な調査を描く後半。
なるほど!と観る者を納得させる内容である。
これぞ調査報道!と言いたくなる展開はとてもスリリングだ。
ひとつの映画としてたまらなく面白い。
それゆえに、多くの人にオススメしたい作品!
これを観る限り、確かにあの写真を撮ったのはニック・ウトではないように思える。
現在、世界報道写真財団は、この写真の撮影者名のクレジット表記を停止している。
ドキュメンタリー作品を観るとき、気をつけるようにしてることがある。
それは、作品の中で描かれてることは事実だとして、描かれていない(撮られていない、もしくは撮ったけどカットした等)事実もあるだろうということ。
作品とは最終的に編集され完成する。
そこには当然制作者の意図が入る。
答えはAですよ、もあれば、答えはBですよ、もある。
AもBも正解ですよ、といったこともあるだろう。
もちろん、
答えは分からない、というパターンもあるはず。
もっと言えば、答えはAだけど...、といった場合も。
作品はあくまでも表現であり、それが事実を映してると闇雲に信じるのは危険だと思っている。
だがドキュメンタリー作品を観ることで事実の一端に触れ、それをきっかけに知らなかった何かを知ることは有意義である。
この映画のようにエンタメ性さえ感じさせてくれるものもある。
ドキュメンタリー映画がもっとメジャーなものとして受け入れられるようになればと、僕は思う。
”ナパーム弾の少女”と呼ばれた当時9歳だった少女ファン・キムハックは、重度のやけどにより繰り返し手術を受ける事となるが、幸いにも回復することが出来、現在ではカナダ国籍を取得しカナダで暮らしている。
